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細見谷渓畔林と十方山林道

2006年(平成18)の活動記録

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細見谷大規模林道工事、本年末ついに着工
- 資料集『細見谷と十方山林道(2006年版)』発行 -

このページの目次です

調査検討委員会と期中評価委員会、大規模林道問題全国ネットワーク(広島大会)そして、ついに工事着手

緑資源幹線林道事業期中評価委員会

期中評価委員会(再評価委員会)とは

緑資源幹線林道事業「期中評価委員会」の役割は、幹線林道事業を社会情勢の変化に合わせて見直すことにあります。「時のアセスメント」(公共事業の再評価システム)制度の導入を受けて設置されたものであり、委員会での検討の結果「計画当時に比べ必要性が小さくなったりした路線(あるいは区間)は中止や一時凍結することもあり得る」ということになります。

2006年度期中評価委員会(意見陳述を行う)

大朝・鹿野線(細見谷渓畔林を含んでいる路線)は、以前(2000年)に一度再評価を受けています。その内容は、広島県廿日市市のホームページ(緑資源幹線林道事業 戸河内・吉和区間)で確認することができます。(2000年まとめ参照)

2006年に開かれた期中評価委員会では、大朝・鹿野線も再びその対象となりました。座長以下数名の委員による現地視察(6/28)に引き続いて、意見聴取の会で地元の賛成派7人と反対派3人が意見陳述(6/29)を行いました。中国新聞記事(2006年6月30日付け)

なお、工事反対の意見陳述を行ったのは、原戸祥次郎さん、金井塚務(広島フィールドミュージアム会長)、豊原源太郎(日本生態学会細見谷要望書アフターケア委員長)の3人です。

委員会は今年夏(8/18、東京)に結審しました。その内容について、同じく廿日市市のホームページをみると、「林野庁による平成18年度緑資源幹線林道事業期中評価委員会の意見」(平成18年8月、2006年)としてまとめられています。

なお、廿日市市ホームページでは、対象路線・区間の表現(下記かっこ内)に一部不明確な点があり、本書編者として以下のようにまとめました。(参考:期中評価委員会議事概要、ただし、その他の用字用語は廿日市市ホームページのまま)

「(大朝・鹿野線全体については)森林の有する多面的機能の発揮、林業、林産業の活動の見通し、地域振興への貢献度等を総合的に検討した結果、次のとおり、条件を付して、事業を継続することが適当と考える。

(戸河内・吉和区間については)林道整備の必要性は認められ、地元の要請も強い一方で、特に渓畔林部分及び新設部分については、自然環境の保全の観点から、さらに慎重な対応が求められる。このため、吉和側、二軒小屋側の拡幅部分については、環境保全に配慮しつつ工事を進めることとする。

また、渓畔林部分及び新設部分については、地元の学識経験者等の意見を聴取しつつ引き続き環境調査等を実施して環境保全対策を検討した後、改めて当該部分の取扱を緑資源幹線林道事業期中評価委員会において審議する」

『中国新聞』社説「細見谷林道、宝の活用法再考したい」

全般的には、確かに事業継続(環境保全に配慮しつつ工事を進める)という結論になっています。しかしながら、渓畔林部分および新設部分については、引き続き調査検討の上、改めて審議するとなっていることを決して見逃してはならないでしょう。

中国新聞社説(2006年8月20日付け)でも、「細見谷林道、宝の活用法再考したい」と題して、次のように厳しく指摘しています。

「一昨日の林野庁の『期中評価委員会』は、細見谷を通る幹線林道の整備計画(十三・二キロ)で、渓畔林部分(四・六キロ)と道路新設部分(一・一キロ)について、さらなる環境調査を求め、着工の是非についての結論を来年度以降に持ち越した。現在の計画の不十分さを委員会として認めたのである」

そして次のように締めくくっています。「西日本でもここでしか見られない『宝』を、生かす方法はいくらでもありそうだ。歩いて癒され、楽しく学習できる自然。従来の観光と違う独自の観光開発も考えられる。それに応じたワサビなどの特産品の生かし方もあろう。初めに道ありき、ではない。最初に自然ありき、で再考したい」

費用対効果(B/C)、1.02

上記廿日市市のホームページをみると、「平成18年度林野公共事業の評価結果及び実施方針」(平成18年8月、2006年)が示されています。もちろん、「戸河内・吉和区間」についての話です。その中から、ここでは特に「効率性」に注目してみましょう。

効率性:コスト縮減に努めているほか、現在着手中の区間について費用対効果分析を試行した結果、費用以上の効果が見込まれることから、事業の効率性が認められる。

総便益(B) 13,918,000,000円
総費用(C) 13,640,000,000円
分析結果(B/C) 1.02

つまり、136億4,000万円の費用をかけて、139億1,800万円の効果が得られるとしています。費用対効果の分析結果(B/C)は、「1.02」です。これをもって、費用に対して得られる効果がごくわずかながらも上回っているので、工事をする意味があるというのでしょうか。

しかしながら、この便益の中には、例えば、通行安全確保便益という項目があり、ガードレールやカーブミラーなどの安全施設の設置にかかる投資分を、走行安全が確保できる便益として認めたりしているのです(「公共事業における事前評価マニュアル」平成12年度)。

このようなことから、通常は少なくとも(B/C)は1.5とか2.0以上なければ、費用に対して便益の方が上回る(投資する価値がある)とは判断されないようです。なお、3年後の2009年に、北海道と林野庁との会議の席上において、以下の林野庁見解が示されました。

-交通安全確保便益は便益として算入しない
-環境保全確保のための調査等についても便益に算入しない

この考え方を当てはめるならば、戸河内・吉和区間の(B/C)は、「1.00」を割り込んでしまう可能性すらあり得ます。

すべては税金から支払われる

幹線林道事業(戸河内・吉和区間)では、事業費の2/3は国からの補助金で、残り1/3が道県(広島県)の負担となっています。そして、林道完成後の維持費は地元自治体(大部分が廿日市市)の負担になります。いずれにしても、100%私たちの税金で賄われます。

当初計画の総事業費は96億円、現在の進捗率4割に対して予算はすでに77億円を消化しています(消化率8割)。このままいけば、全体で180億円近い事業になってしまいます。
(参考:松本大輔のホームページ、細見谷に関する主張、2005年11月28日付け)

地元廿日市市の動き

住民投票を実現する会(署名活動)

2006年8月18日(金)、奇しくも第4回期中評価委員会結審の日に、「細見谷林道工事の是非を問う住民投票条例案」について審議するための臨時市議会が開かれました。これは「廿日市市における細見谷林道工事の是非を問う住民投票条例制定請求」(直接請求)の署名活動(代表/金井塚務、事務局長/高木恭代)を受けて開かれたものです。

その結果、住民投票条例案は7対24で否決されたため、住民投票条例は設置されないことになりました。つまり、最終的に市民の意思を直接示す機会は失われてしまいました。

しかしながら、物理的な限界(署名期間わずか一か月)や署名押印という高いハードルがあるにもかかわらず、有効署名7,867人分(署名総数8,053、無効186)が集まったことの意義は非常に大きいと言わざるを得ません。地方自治法第74条で必要とされる署名数は、有権者総数(94,776人、2006年6月2日現在)の2.0%(1,896人)であり、今回はそれをはるかに上回る8.30%の有効署名が集まったのです。

中国新聞記事(2006年5月24日付け)では、「細見谷大規模林道建設の是非を問う住民投票を実現する会」が発足(5/23)して、住民投票条例の制定を目指して手続きを開始したことを伝えています。

中国新聞記事(2006年6月13日付け)では、「細見谷林道の住民投票、条例請求へ署名数確保」として、署名数が必要数「約二千人分」を突破したことを伝えています。

中国新聞記事(2006年6月14日付け)をみると、「林業関係者や地元住民でつくる廿日市市吉和地区緑資源幹線林道整備促進協議会の安田孝会長」が「廿日市市に早期整備要請」とあります。安田会長は、「渓畔林を通る部分の大半は現在ある道路を改良する計画で、環境破壊の恐れはない」と説明したということです。

中国新聞記事(2006年7月1日付け)では、「(6月30日に)住民投票条例制定の直接請求に必要な署名数の四倍を上回る八千四十八人分を同市選管に提出した」となっています(後に5人分追加となり、上記にあるように署名総数8,053となったのかもしれません)。

中国新聞記事(2006年8月19日付け)では、住民投票条例案が否決(8/18)されたことを伝えています。採決に先立って、請求者を代表して金井塚務さんが意見陳述を行いました。

広島県廿日市市当局

「緑資源」幹線林道は、完成部分をその都度地元自治体に管理移管していくことになっています。したがって、十方山林道の大部分(渓畔林部分を含む)は、将来は廿日市市が管理することになります。

その廿日市市当局の説明によると、幹線林道事業計画は「旧・佐伯郡吉和村」からの引き継ぎ事項(2003年3月1日、吉和村は廿日市市と合併、廿日市市吉和となる)であり、その早期完成は住民の意思であるとしています。

しかしながら、市当局自らが何らかの判断を示したことは今まで一度もなく、緑資源機構のうたい文句である「環境保全に配慮しつつ工事を進める」という文言を繰り返すのみです。

広島県廿日市市のホームページ(緑資源幹線林道事業 戸河内・吉和区間)では、上記でみたように、細見谷大規模林道工事について時間の流れに沿ってコンパクトにまとめてくれています。

ところが、本年末(11/21)に細見谷大規模林道工事がついに着手され、林道の両端(二軒小屋、吉和西)から工事が始まったことについては、何ら記載がありません(2010年5月5日現在確認)。そして、トップページからリンクされていた「緑資源幹線林道事業 戸河内・吉和区間」のリンクがいつの間にか外されてしまっています。そのため、トップページに設置された検索窓で検索する以外に、該当ページを探し当てる手段がなくなってしまいました。

細見谷の特別保護地区指定を求める要望書

署名活動を行う

昨年末(12/1)に、科学者グループによる新たな署名活動、すなわち「渓畔林を含む細見谷地域全域を西中国山地国定公園特別保護地区に指定することを求める署名のお願い」が始まりました。

森水の会でもそれに協力して、広島市中心部の中区本通(本通電停東詰)で街頭署名活動を繰り返し(1/29、2/26、3/26)行いました。そして、その他の署名を合わせて添付した要望書が広島県に提出(5/9)されました。署名総数は、合計42,894筆(そのうち一般42,699、科学者195)となっています。

特別保護地区に格上げすることの意義

細見谷渓畔林一帯は、現在は特別地域(第2種特別地域)に指定されています。上記署名のお願いでは、これを、特別保護地区に格上げするよう広島県に働きかけてゆく、としています。

特別保護地区は自然保護法で最も規制が厳しい地区です。要望書(署名)提出を伝える中国新聞記事(2006年5月10日付け)のいうように、「林道の建設が原則不可能」となるのでしょうか。金井塚さんは、朝日新聞記事(2006年5月10日付け)で「特別保護地区になっても着工は阻止できないが・・・」とも語っています。

いずれにしても、細見谷地域はそれにふさわしい取り扱いを受けるべきです。ちなみに、国の特別名勝「三段峡」では特別保護地区となっている区域もあります。

広島県は、特定植物群落の一部を除外してしまった

広島県が、大規模林道のルート(十方山林道の拡幅を含む)を決定したのは1972年です。そして、1977年3月には大規模林道大朝・鹿野線の実施計画が農林大臣認可となりました。その直後に広島県は、自然環境保全基礎調査(環境庁、現・環境省)において、「特定植物群落」の選定(1978年度)を行っています。

その結果、大規模林道のルート沿いでは、「三段峡の渓谷植生」(柴木から樽床ダムまでの渓谷斜面)と「細見谷の渓谷植生」(水越峠から吉和川合流点まで)の二か所が選定されました。いずれも、選定基準は「A自然林」となっています。屋久島や白神山地と同等の扱いです。

しかしながら、この時に広島県は、専門家の調査結果を無視して「細見谷渓畔林や三段峡の一部(餅ノ木よりも上流部)」を群落の指定範囲から除外してしまいました。いずれも大規模林道の予定ルートに当たる区域であり、大規模林道工事の是非をめぐる判断に影響を与えると考えられます。

日本生態学会(2003年3月23日付け)では、「「環境影響評価の基礎資料」と位置付けられる特定植物群落の選定において、結果的に細見谷の自然の重要性が過小評価された」として遺憾の意を表しています。

そのほかの動き

細見谷林道の植物調査継続

今年も十方山林道(細見谷林道)沿いや新設部分で植物調査を継続実施しました。新設予定地では、杭の範囲内の立ち木に番号札が付けられています。昨年秋には見なかったものです。これらの木々がそのうち切り倒されてしまうのでしょうか。その周辺では、広島県RDB記載種を数種も見ることができます。

米澤信道さんは、今年は体調不良で参加いただけませんでした。しかし、桑田健吾、松村雅文の両氏をはじめ数名の方にご指導いただき、今年も大きな成果をあげることができました。

朝日新聞の記者さんが一日同行したこともあります。朝日新聞記事(2006年5月10日付け)では、「動植物への影響大きい」という小見出しで「事業の是非はもっとじっくり検討してもよいのではないか」と署名入りで書いています。

「緑資源機構」に官製談合の疑い浮上

中国新聞記事(2006年11月1日付け)によると、独立行政法人「緑資源機構」(農林水産省所管)が発注するコンサルタント業務の入札で官製談合が繰り返されていた疑いが強まり、公正取引委員会は、機構本部のほか広島など計八地方建設部で立ち入り検査を実施しました。(2007年度末で緑資源機構は廃止になります)

2006年年表

-1月9日(祝)、巡回写真展「細見谷渓畔林と生き物たち」(&座談会)始まる
金井塚務(広島フィールドミュージアム会長)
-1月29日(日)、街頭署名活動(第1回)、広島市中区本通(579筆)
-2月5日(日)、森と水と土を考える会、総会
(カトリック観音町教会・ヨゼフ館2階、広島市西区観音町)
-2月26日(日)、街頭署名活動(第2回)、広島市中区本通(393筆)
-3月26日(日)、街頭署名活動(第3回)、広島市中区本通(325筆)
-4月29~30(日)、細見谷渓畔林春の植物調査、指導/桑田健吾、松村雅文、その他の各氏
-4月30日(日)、「細見谷と十方山林道(2006年版)」発行(実際の完成は、5/7)
-5月9日(火)、広島県(環境保全室)へ申し入れ
渓畔林を含む細見谷地域全域を西中国山地国定公園特別保護地区に指定することを求める要望書提出/細見谷渓畔林保全を求める科学者グループ
-5月13日(土)、細見谷大規模林道建設の是非を問う住民投票を実現する会(廿日市市)、発足
-5月18日(木)、細見谷渓畔林春の植物追加調査
-6月10~11日(土・日)、大規模林道問題ネットワークの集い in 広島(第14回)
「止めよう!緑資源幹線林道、残そう!細見谷渓畔林」
10日現地観察会、11日集会(広島県立生涯学習センター、広島市東区光町)
-6月21日(水)、細見谷渓畔林初夏の植物調査1
-6月28日(水)、細見谷渓畔林初夏の植物調査2(期中評価委員会現地調査隊と遭遇)
-6月29日(木)、平成18年度緑資源幹線林道事業期中評価委員会地元等意見聴取等の実施意見陳述者/金井塚務、豊原源太郎、原戸祥次郎の各氏
(いこいの村ひろしま、広島県安芸太田町)
-7月30日(日)、細見谷渓畔林夏の植物調査
-8月18日(金)、平成18年度期中評価委員会(林野庁)、第4回委員会にて結審
-8月18日(金)、「廿日市市における細見谷林道工事の是非を問う住民投票条例制定」について審議するための臨時市議会(廿日市市)
-8月26~27日(土・日)、26日猪山、27日吉和で植林地草刈り
-9月20日(水)、細見谷保全ネットワーク新事務局長就任
(金井塚務・広島フィールドミュージアム会長)
-10月14日(土)、猪山神楽見物
-10月29日(日)、細見谷を守る会、発足
-10月30日(月)、緑資源機構、官製談合の疑いで公正取引委員会が立ち入り検査
-11月5日(日)、秋の十方山林道ウォーキング
(吉和西~祠~下山橋~水越峠~二軒小屋)
-11月21日(火)、細見谷大規模林道工事着手、林道の両端(二軒小屋、吉和西)から
-12月3日(日)、定例会、忘年会
-12月5日(火)、日本の天然林を救う全国連絡会議(代表世話人・河野昭一京都大学名誉教授)、国有林内の天然林を環境省に移管し保全する改革に関する請願書、署名活動開始

そのほかの資料など

-中国新聞記事(2006年1月7日付け)
細見谷発、命のフォト展、1月9日から始まる
巡回写真展「細見谷渓畔林と生き物たち」(&座談会)
広島フィールドミュージアム(金井塚務会長)
-毎日新聞記事(2006年2月27日付け)
林道予定地の廿日市・細見谷地区
環境保護求め署名活動
-中国新聞・広場(2006年3月28日付け)
細見谷林道は必要か、中佐知子(森水会員)
-中国新聞記事(2006年6月10日付け)
林野庁が事業再評価、「細見谷林道」大詰め
反対派あす全国集会
-朝日新聞・私の視点(2006年7月28日付け)
河野昭一京都大学名誉教授(植物生態学)
天然林伐採、国民の共有財産を切るな
-朝日新聞記事(2006年11月22日付け)
細見谷林道、渓畔林区間外で着工
市民団体「アリバイ的」と批判

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