カテゴリー
細見谷渓畔林と十方山林道

生命の誕生と生物多様性

宇宙が誕生したのは、今から百数十億年前のビッグバンによるとされています。銀河系の誕生(天の川銀河系、120億年前)、そして太陽系の誕生(約46億年前)から地球上における生命誕生(約40億年前)まで、いくつもの重大な出来事が起こりました。そして、その後も続いた様々な環境変化を乗り越えて、生物は現在まで途切れることなく命をつないできています。

生命の誕生から現在まで、生物は幾度か絶滅の危機に遭遇しました。しかし、すべての生物が完全に死滅することはありませんでした。そのたびに生き残った生物が次の新しい時代を作り上げていきました。海中での有機化合物の合成から、生命の誕生・発達、そして陸上への進出というように、生物の進化とは、生息域の拡大を伴う種の分化(多様化)と言ってもよいでしょう。

このページの目次です

生物多様性とは

生物多様性とは、”EICネット:環境情報案内・交流サイト”によれば、「もとは一つの細胞から出発したといわれる生物が進化し、今日では様々な姿・形、生活様式をみせている。このような生物の間にみられる変異性を総合的に指す概念であり、現在の生物がみせる空間的な広がりや変化のみならず、生命の進化・絶滅という時間軸上のダイナミックな変化を包含する幅広い概念」としています。

遺伝子の多様性(細見谷のブナ集団の場合)

生物多様性は、「遺伝子」、「種」、そして「生態系」の三つのレベルで考えられています。「遺伝子」レベルの多様性とは、同一「種」内における遺伝子の多様性のことであり、環境の変化に対する適応からさらには種の分化まで、生物進化の原動力となっています。

河野昭一先生の講演(2005年10月2日)で、「遺伝子」レベルの生物多様性について少し理解を深めることができました。

ブナは風媒花だそうです。同一個体に雄花、雌花を持っているが、開花時期が少しずれる仕組みになっており、自家受粉はしません。それでは、ブナの花粉はどれくらいの範囲に飛散するかといえば、ほとんどは親木から約30m、最も遠くてせいぜい70~80mだということです。

したがって、ブナ集団がこの程度の幅をもって分断されると、隣の集団と遺伝子の交換をすることが難しくなります。

河野先生たちは、各地の大小ブナ集団について、一本一本の木ごとに遺伝子解析を行なっています。その結果からは、ブナ集団が分断されて集団サイズが小さくなると、遺伝子の組み合わせが単純化して、遺伝子の多様性が急激に失われていくことを確かめています。そしてそれは、やがて絶滅につながることを意味します。

細見谷渓畔林の場合、見た目にはまだ何とか全体が一つの集団としてまとまっており、遺伝子の多様性はかろうじて保たれているだろうということです。そのことを実際に確かめるため、細見谷渓畔林でブナの遺伝子解析調査が計画されたものの、種々の事情で今は保留になっているとのこと、残念なことです。

種及び生態系の多様性

「種」レベルの多様性とは、「種」の総数そのものを対象としたもので、一般的に理解しやすいでしょう。

ここで種(species)とは、『広辞苑』(第五版1998年)から引用すると、「生物分類の基本単位。互いに同類と認識しあう個体の集合であり、形態・生態などの諸特徴の共通性や分布域、相互に生殖が可能であることや遺伝子組成などによって、他種と区別しうるもの。生物種。(以下略)」となります。

これまで地球上で記録された生物数は約180万種とされています。そして、昆虫、下等植物、微生物の解明が進めば、その数はさらに増えて、3千万から1億種にもなるだろうとも言われています。

これらの種は、単独で生息しているわけではありません。ある一定の環境ごと、すなわち気候条件を中心として地形や地質などの環境ごとに適応した多様な生物が、互いに共生しあう関係にあります。あるいは、環境の異なる生態系ごとにすみ分けをしています。「生態系」レベルの多様性とは、様々な生物の相互作用から構成される様々な生態系が存在することを言います。

「生物多様性は生命の豊かさを包括的に表した広い概念で、その保全は、食料や薬品などの生物資源のみならず、人間が生存していく上で不可欠の生存基盤(ライフサポートシステム)としても重要である」(同上、EICネット)。

人類の誕生と生物多様性

「”日本人はるかな旅”展」(国立科学博物館ホームページ内)は、人類の進化について次のように述べています。

「私たち世界中の現代人は、ホモ・サピエンス(Homo sapiens、新人)という一つの種に分類されます。新人は、10万年前ごろにアフリカで誕生し、6万年ほど前からユーラシア大陸に広がり始めたと考えられています。新人は、旧人に比べるとはるかに進歩した技術を持ち、急速に分布範囲を広げ、世界中へ拡散して各地の現代人の祖先となりました。つまり、世界中のどの現代人集団も、ほんの数万年前までは同じ集団の仲間だったのです」。

新人(現代人)の誕生は、地球と生物の長い進化の歴史からすれば、ほんのわずか前の出来事にすぎません。しかしながら、その人類の経済活動の影響を受けて、極めて短期間のうちに多くの動植物がすでに絶滅したり、絶滅の危機に瀕するようになっています。

生物界に最後に登場したヒトの生命は、数え切れないほどの生物たちの相互作用の上に成り立っていることを忘れてはならならないでしょう。地球規模での環境破壊の進行による絶滅種の増加、すなわち生物多様性の低下は、今やヒトそのものの生存を脅かすまでになっていると言えます。

注:このページは、電子書籍『細見谷渓畔林と十方山林道』アマゾンKindle版(2017年3月6日)の一部です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。