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映画「ロング・トレイル!」(2015年米国)の上映が、2016年7月30日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて始まりました。私はこの映画を広島で見ました。2016年8月5日(金)12:40、八丁座(劇場弐、B-10)・・・福屋八丁堀本店8階(広島市中区)
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アパラチアン・トレイル(Wikipediaより)
映画の舞台となっているのは、北米の三大ロングトレイル(長距離自然歩道)の中の一つとして最も有名なアパラチアン・トレイルです。
アパラチアン・トレイルの全区間が最初に踏破されたのは1937年である。
現在では、毎年、約2,000人がスルー・ハイキング(thru-hiking、トレイルの全区間を1シーズン内に踏破すること)に挑戦する。多くのスルー・ハイカーは、雪の残る北部を避け、春に南端のジョージア州スプリンガー山を出発し、メイン州のバクスター州立公園(Baxter State Park)が閉鎖される10月15日までに北端のカタディン山のゴールをめざす。しかし、成功するのは挑戦者のうちわずか10%ほどにすぎない。
要した期間にかかわらず、全区間を踏破した者は、総延長が2,000マイル余りであることに因んで2000 Milerと呼ばれる。踏破を目的としない者も含めたアパラチアン・トレイルへの年間訪問者は約400万人に及ぶ。(Wikipediaより、2016/08/08閲覧)
北米の三大ロングトレイル
- AT(Appalachian Trail、アパラチアン・トレイル)
- PCT(Pacific Crest Trail、パシフィック・クレスト・トレイル)
- CDT(Continental Divide Trai、コンチネンタル・ディバイド・トレイル)
ATは、アメリカ合衆国東部のアパラチア山脈に沿って、南北(北東/南西)に縦貫する長距離自然歩道(全長約3,500km)です。南端のジョージア州から北端のメイン州まで14州にまたがっています。3大トレイルの中では一番整備されており、一番歩かれているトレイルです。
PCT(Pacific Crest Trail、パシフィック・クレスト・トレイル)は、アメリカ西海岸のメキシコ国境からカナダ国境まで南北に縦走する長距離自然歩道(全長約4,260km)です。
CDT(Continental Divide Trai、コンチネンタル・ディバイド・トレイル)は、おおまかには北米大陸分水嶺に沿って、メキシコ国境からカナダ国境まで南北に縦走する長距離自然歩道(全長約4,500km)です。
映画「ロング・トレイル!」あらすじ
映画のあらすじなどを、「ロング・トレイル」解説(http://eiga.com/movie/82938/)で確認してみましょう。
名優ロバート・レッドフォードが主演・製作を務め、北アメリカ有数の自然歩道「アパラチアン・トレイル」踏破を目指すシニア男性2人組の旅を描いたロードムービー。欧米で人気の作家ビル・ブライソンが実話をもとにつづった著書「A Walk in the Woods」を、「だれもがクジラを愛してる。」のケン・クワピス監督が映画化した。かつて紀行作家として世界各地を旅したビルは、現在は故郷で家族と共に穏やかな毎日を送っていた。そんな日常に物足りなさを感じたビルは、全長3500kmにおよぶ アパラチアン・トレイルを旅することを思いつく。40年ぶりに再会した破天荒な友人カッツと一緒に出発したものの、予想外のハプニングが次々と2人の身に降りかかる。主人公の旅の相棒カッツ役を個性派俳優ニック・ノルティ、妻役をオスカー女優エマ・トンプソンがそれぞれ演じた。(2016/08/08閲覧)
映画そのものは、コメディタッチでそれなりに楽しめる内容です。また、壮大な森や森の中の風景が幾度となく映し出され、山好きにはたまらない映画になっています。ところで、そうした森や森のなかの雰囲気が西中国山地とよく似ているような気がします。
映画「ロング・トレイル」の舞台アパラチア山脈と西中国山地は雰囲気がよく似ている
北米(特に東海岸のアパラチア山脈)と東アジア(西中国山地を含む日本列島から中国内陸部にかけて)は、共に夏緑樹林帯(落葉広葉樹林帯)に属しています。そしてこの両者には、実は多くの植物で共通して出現する種のあることが知られています。つまり、飛び離れて分布(隔離分布)しているのです。(東亜―北米要素)
さて、北半球の夏緑樹(落葉広葉樹)の代表ともいうべき植物はブナです。北半球のブナ帯には、前述のアメリカ東部、日本から中国内陸部にかけての一帯に加えて北西ヨーロッパがあります(合計三箇所)。
私は、自著『細見谷渓畔林と十方山林道』(2007年)pp.114-115「落葉広葉樹林の代表 ― ブナの森」の中で、アパラチア山脈について勉強しました。その中で、私は河野昭一・京都大学名誉教授(植物学)の論文を引用しています。
この3つのブナ帯は、第3紀起源の遺存的な暖温帯性植物の分布域としても極めてよく知られている。とりわけ、日本列島から中国内陸部へ拡がる、ブナを主体とする落葉樹林帯が分布する地域と、アメリカ大陸東部の氷河期に多くの温帯植物の避難場所(refugia)となったアパラチア山地を中心とする落葉樹林帯には、数多くの暖温帯、冷温帯の遺存種の分布の中心がある。(河野p.67)
清水善和p.24は次のようにまとめています。「」内の引用も同様。
化石の研究によれば、新生代の古第三紀は地球全体が温暖で、当時の北極をとりまく地域には温帯性の落葉広葉樹林(現在の夏緑樹林の元になる植物群)や針葉樹との混交林が成立していたとされ、これらの構成種を第三紀周北極要素という。ところが、その後、地球は急激に寒冷化の方向に進み、この植物群は分布を南方へと移動させた。移動先は大きくみて、ヨーロッパ、東アジア、北米の3か所である。(清水p.24)
第四紀になると寒冷化が一層進みました。
清水p.24は、ヨーロッパでは「アルプス山脈が東西に横たわっていて,南方に逃れようとする植物の障壁となったため・・・温帯性植物の多くが絶滅した」。「現在のヨーロッパの植物相がたいへん貧弱なのはそのせいである」としています。
それに対して、東アジアや北米ではそのような障害がなかったため、東アジアと北米(特に東海岸地域)では隔離分布する多くの遺存種が見られるようになったとしています。
現在もブナ属、カエデ属、ニレ属、クルミ属などヨーロッパ、東アジア、北米の温帯域(夏緑樹林帯)に共通して出現する種がある一方、ヨーロッパでは化石でしか見つからず、現在は東アジアと北米(とくに海流の影響で気候のよく似た東海岸地域)に隔離分布する多くの種(東亜―北米要素という)が見られることとなった。(清水p.24)
なお、「ヨーロッパブナ、中国内陸部の主要なブナ、アメリカブナの美林は、伐採によってその大半が失われてしまったので、大伐採があったとはいえ、かろうじてブナの森の原生林のイメージが保存されているのは、日本のブナ林だけである」。(河野p.67)
参考資料
- ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験 ― 北米アパラチア自然歩道を行く 単行本 – 2000/6
ビル ブライソン(著), Bill Bryson(原著), 仙名 紀(翻訳) - A Walk in the Woods: Rediscovering America on the Appalachian Trail (Official Guides to the Appalachian Trail) Kindle版
Bill Bryson (著) - 山本明正(2007)『細見谷渓畔林と十方山林道』自費出版、アマゾン Kindle版有り
- 河野昭一(2002)「21世紀の地球はどこへ行くか、北半球における生物多様性の宝庫 ― ブナの森の行く末を占う ― 」,『細見谷と十方山林道』(2002年版)
- 清水善和(2014)「日本列島における森林の成立過程と植生帯のとらえ方 ― 東アジアの視点から,『地域学研究 第27号 2014』