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細見谷渓畔林と十方山林道

独立行政法人「緑資源機構」とは

大規模林道工事は、幾度かの組織変遷の末、現在では独立行政法人「緑資源機構」による〈緑資源幹線林道〉事業として実施されています。緑資源機構の沿革について、森林開発公団関連部分を同機構ホームページから引用すると以下のとおりです。

注:本稿は、山本明正著『細見谷渓畔林と十方山林道』自費出版(2007年)を電子書籍化する準備のために加筆修正しているものです。したがって、その背景は2007年当時のままとなっています。

このページの目次です

「緑資源機構」沿革

昭和31年、森林開発公団設立、熊野・剣山地域林道事業
昭和34年、関連林道事業
昭和36年、水源林造成事業
昭和40年、特定森林地域開発林道事業(スーパー林道)
昭和48年、大規模林業圏開発林道事業
昭和63年、特定森林総合利用基盤整備事業
平成11年、農用地整備公団の業務を承継

緑資源機構の変遷

森林開発公団(1956年、昭和31年)- 公団(特殊法人)設立
緑資源公団(1999年、平成11年)- 名称変更
独立行政法人緑資源機構(2003年、平成15年)- 独立行政法人化

ここで“大規模林道とは何か”について、私なりにまとめてみました。参考資料は、「大規模林道はいらない」(藤原信pp.9-27)です。

1956年7月16日(昭和31)
森林開発公団設立(同年4月27日公団法公布)
事業期間、1956年12月10日~1963年1月17日

公団設立の主たる目的は、「熊野川流域(奈良・三重・和歌山の三県)と剣山周辺地域(徳島県)において、増大する木材需要に対処するため、手付かずに残されている奥地未開発林を開発するための林道を開設すること」でした。

このように、本来公団設立の主目的は、限定された地域における林道事業を行うことにあり、事業終了(1963年)とともに公団は解体されるべき運命にありました。ところが公団では、初期の事業が終わるまでに、下記のように、関連林道事業、水源林造成事業の二つを新たな所管事項として加えています。

1959年3月(昭和34)
“関連林道事業”を公団の所管事項とする(公団法改正)

関連林道とは、「国有林と民有林が相接していて、豊富な森林資源を有しながら、その経営形態の相違などから開発が遅れている奥地未開発林において、国有林野事業の民有林協力という観点から、国有林野事業の一環として開設された林道」(『森林開発公団三十年史』1984年)のことを言います。

1961年(昭和36)
“水源林造成事業”を公団の所管事項とする(公団法改正)

水源林造成事業とは、「ダム上流域などの水源地域にある保安林のうち、水源かん養機能(雨水を貯える働き)などが低下している土地を対象に急速かつ計画的に造林を行うことによって、森林の水源かん養機能等森林の持つ公益的機能を高度に発揮させる事業」(緑資源機構ホームページより)です。これによって、公団は林道事業のほかに造林事業も実施することになったのです。

スーパー林道は林道か?

1965年(昭和40)
“特定森林地域開発林道事業”を公団の所管事項とする(公団法改正)

いわゆる「スーパー林道」のことです。幅員4.6m、〈未舗装〉ながら「峰越し・多目的」林道として開設されました。開設対象地域は、「地勢等の地理的条件が極めて悪く、かつ、豊富な森林資源の開発が十分に行われていない」奥地森林地帯でした。1990年(平成2)完成、全国23路線、総延長1,179km、総事業費1,018億円。

スーパー林道は、自然公園内の山岳地帯を通過する路線が多く、自然保護や林道の安全性の観点から多くの問題を残しています。

例えば、南アルプススーパー林道(長野県~山梨県)は、南アルプス国立公園を貫いて開設されています。最高点は、南アルプスの仙丈ヶ岳3032.7m~甲斐駒ヶ岳2965.6m間にある北沢峠2030m台であり、そこが長野・山梨両県の県境となっています。

県境山岳部では一般車両は通行止めとなっており、両県側から小型バスが北沢峠まで運行されています。現在では、北沢峠付近の国立公園第一種指定地域のところだけ土のまま残され、その他は舗装されています。観光開発と自然保護との綱引きの中で決められた妥協策ということです。

スーパー林道は林道なのでしょうか。

「ルポ・東北の山と森」(石川徹也p.23)は、「山梨県も南ア林道の維持管理費は年間約2500万円で、1982年時のように台風災害がひどい年は、1000万円単位で補修費が上乗せされる。南ア林道は有料道路ではないので、すべて県費で賄っている。観光道路の代わりに、莫大な借金と維持管理費が地元住民に残されたのが現状だ」としています。

大規模林道はさらに大型の規格

1973年(昭和48)
“大規模林業圏開発林道事業”を公団所管とする(公団法の改正なし)

大規模林業圏開発林道事業とは、「低位利用の広葉樹林が広域にわたって存在し、かつ、林野率が極めて高い地域において、林道網の中枢となるべき大規模林道の開発を実施するもの」(『日本林業年鑑』)で、全国に七つの林業圏域を設定しています。当初計画では、7林業圏域で計32路線(29路線・3支線)、計画延長2267.3km、総事業費9550億円となっています。

このようにして、公団ではスーパー林道に加えて、さらに大規模林業圏開発林道事業を所管することになりました。いわゆる「大規模林道」とは、この全国7林業圏域における林道網の中枢として位置付けられた大規模な林道のことを言います。

「大規模林道」の規格は、幅員7m(道路幅員5.5m)二車線〈舗装〉で、「スーパー林道」(未舗装)のそれよりもさらに大型となっています。その理由の一つとして、「林道沿線に森林レクリエーション等の場がある場合には、時期的に交通量が多くなり、大型バス等の乗り入れも多くなる」ことが上げられています。こうした「山岳ハイウェイ」構想は、まさにバブル期のリゾート開発となんら変わるところがありません。

大規模林道は林道として役に立つのか?

大規模林道は、スーパー林道と同様に厳しい山岳地帯を通る道路であり、林道工事中や完成後に擁壁・路肩等の崩落が各地で起きています。地質や気象条件の厳しい場所での道路建設では、完成までの建設費のみならず完成後の継続的な補修に工事費がかさみ、そのたびに国民の大切な税金が投入され続けています。

本業の林業に関しては、藤原信・大規模林道問題全国ネットワーク代表委員が、次のようにするどく批判しています。(「大規模林道はいらない」p.19)

「(本事業で開発の対象となる地域、すなわち)これまで生産性の低い薪炭林として人工林化されなかった地域は、自然条件がスギやヒノキの人工林に適さないところが大部分で、このようなところに適地、適木、適施業という林学のルールを無視して拡大造林を進めても、不成績造林地を拡大生産することになり、林業的効果はほとんど期待できない」。

さらに、「(大規模林道は)地質や気候条件の厳しい場所に建設されるために工事中の事故も少なくない。また、自治体が負担する維持管理費が財政を圧迫している」。「細見谷と十方山林道(2002年版)」藤原信p.54

公団存続の目的は何か

以上、目的の不明確な事業が次々と公団によって所管され続けています。これらは、緑資源機構(旧・公団)の保身(延命)のためだけに行われる事業ではないのでしょうか。全体像について、きちんとした数値に基づく科学的な見解を示してもらいたいと考えます。

緑資源機構ホームページ(2007年5月閲覧)によれば、「(全国の7林業圏域において)現在計画されている延長2053kmのうち、63%に当たる1288kmが完成しています。完成した幹線林道は、地域振興の基盤として活用されてます」となっています。

しかしこのことは、事業開始三十余年にしていまだ計画の約6割しか完成していないことを示しているにすぎません。

参考までに、平成9年度(1997年)の進捗率は43.6%(総延長2256.3 km)でした。したがって、10年ごとの進捗率をおおよそ20%ずつとみることができます。つまり、完成まで(残り4割)さらに後20年を要することになります。

注:このページは、電子書籍『細見谷渓畔林と十方山林道』アマゾンKindle版(2017年3月6日)の一部です。

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