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安芸国佐伯郡の変遷
本書の舞台である細見谷は、広島県廿日市市(はつかいち~し)吉和(旧・佐伯郡吉和村)にあります。吉和(よしわ)地区は、広島県北西部の山あいにあって、山口・島根両県と境を接しています。
ところで、古代の佐伯郡(さえきぐん)の範囲は、「東は広島の中心部を流れる太田川から、西は県境(筆者注=山口県境)の小瀬川にいたる」かなり広いものでした。(『廿日市町史・通史編(上)』p.285)
佐伯郡が成立した時期ははっきりしませんが、かなり古くからあった郡のようです。「佐伯郡の郡名は藤原宮出土木簡に「安芸国佐伯郡雑腊二斗」としてはじめて見える」(同上書p.285)。その時期については、「木簡作成の上限は大宝元年(701)ということになる」そうです。(同上書p.286)
広島県廿日市市は、安芸国佐伯郡の郡役所が置かれていた廿日市を中心として、瀬戸内沿岸部(広島県西部)で発展してきた市域です。廿日市市は、旧・佐伯郡廿日市町からの市制移行(1988年、昭和63年4月1日)によって誕生し、広島市西隣りのベッドタウンとして発展しています。
廿日市という名前の初出としては、室町時代の享徳3年(1454年)ごろの資料が知られています。その名前の由来は、毎月廿日(はつか)の日に市(いち)が立ったことによるとされているものの、詳細については不明な点も多いようです。
廿日市は、毛利元就の奇襲「厳島合戦」でも有名な対岸の厳島(宮島)と深い関係があり、中世には、厳島神社の神主家の居城(桜尾城)があった所でもあります。古くから木材加工業が発達しており、現在の形をした「けん玉」発祥の地として知られています。
廿日市は、昔の西国街道(江戸時代の山陽道)沿いにあって、古くから栄えていたことは間違いありません。1889年(明治22)の市制町村制施行当時、すでに佐伯郡廿日市町として、同郡内の厳島町(現在の廿日市市宮島町)と並んで町政を敷いています。(当時の佐伯郡2町39村)
細見谷のある旧・佐伯郡吉和村は、2003年(平成15年)3月1日、廿日市市に編入合併(吸収合併)され廿日市市吉和となりました。この合併によって、廿日市市は大規模林道問題の当事者となったのです。
その他、同じ佐伯郡内の佐伯(さいき)町との合併(吉和村と同じく、2003年3月1日)、さらには大野町及び宮島町との合併(共に2005年11月3日)によって、廿日市市の市域は大いに広がりました。そして、これら平成の大合併を経て佐伯郡は消滅しその長い歴史を閉じました。
中世の安芸国佐伯郡は、現在の市町名でいうと、大竹市、廿日市市、広島市佐伯区、及び広島市西区の一部、江田島市の一部となっています。
廿日市市が隣接する自治体は、北から時計回りに、広島県山県郡安芸太田町(北)、広島市(北東~東)、広島県江田島市(南東)、広島県大竹市(南~南西)、山口県岩国市(西)及び島根県益田市(北西)となります。
なお、佐伯郡は、中世の一時期には佐東郡と佐西郡に分かれていました。それが、1664年(寛文4)、佐西郡が佐伯郡と改称されて佐伯郡の名前が復活しました。佐東郡の地はその後紆余曲折を経て、広島市の政令指定都市移行(1980年4月1日)に伴い広島市安佐南区となりました。つまり、古代の安芸国佐伯郡には、現在の広島市安佐南区も含まれることになります。
吉和地区を取り巻く道路環境
吉和地区には、一般国道と高速道路、そして県道の3本の舗装道路が既に存在しています。これに加えて、「既存・未舗装」の十方山林道(細見谷林道)を、4本目の道路として拡幅舗装化する意義があるかどうかが問われています。
なぜならば、十方山林道(細見谷林道)は、生物多様性の宝庫である細見谷渓畔林を貫いて造られており、そこを拡幅舗装化することによる環境への影響が懸念されるからです。
1)国道186号(島根県江津市~広島県大竹市)
2)中国縦貫自動車道(1983年開通)
3)広島県道296号(吉和戸河内線)
4)十方山林道(二軒小屋~吉和西)
吉和集落の中心は標高約600mの盆地にあり、街中を国道186号(島根県江津市~広島県大竹市)が走っています。並行して中国縦貫自動車道(1983年開通)があり、吉和インターから隣町の戸河内インター(広島県山県郡安芸太田町)に通じています。
吉和集落の最奥に十方山があります。その位置は、立岩山~市間山の向こう側で、広島・〈島根〉県境尾根のこちら側です。そして、十方山に沿って、2本の道路が既に開通しています。広島県道296号(十方山南側)と十方山林道(十方山北側)です。
広島県道296号(吉和戸河内線)は、立岩貯水池の横から戸河内に通じる道路で、総延長約21.5kmのうち、異常気象時通行規制区間18.3km及び冬期閉鎖区間(12月15日~翌年3月15日)6.7kmを含んでいます。つまり、県道296号は、冬期雪に閉ざされる可能性があることを示しています。
そして、十方山林道は、吉和地区の最奥(広島・島根県境尾根のこちら側)にあり、冬期完全に雪で閉ざされてしまいます。
注:このページは、電子書籍『細見谷渓畔林と十方山林道』アマゾンKindle版(2017年3月6日)の一部です。