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石けん(石鹸)とは、界面活性剤の一種である
石けん(石鹸)とは、「洗剤」(汚れを落とすものの総称)の一種である。つまり、合成洗剤などと同じ界面活性剤であり、本来まじりあうことのない水と油をなじませる作用を持っている。
石けん(石鹸)などが、このような界面活性剤としての性質を有するのは、分子中に親油性の部分(脂肪酸塩の側鎖部分)と親水性の部分(ナトリウムなどアルカリ金属の結合部分)の両方を持っていることによる。
石けん(石鹸)と合成洗剤の違い
石けん(石鹸)は、動植物から得られる天然油(油脂、脂肪酸)にナトリウムやカリウムといったアルカリ金属を加えて加熱するという簡単な方法(鹸化)で、5千年も前から作られてきた。
一方、石油を原料とする合成洗剤(合成界面活性剤)の開発は、第1次世界大戦中のドイツに始まっている。
日本で合成洗剤が本格的に生産されるのは戦後になってからで、1963年(昭和38)には、合成洗剤の生産量が石けんのそれを上回っている。
石けん(石鹸)には、必ず「石けん」という表示がある
石けん(石鹸)には、固形のものと液体のものの両方がある。「固形石けん」(脂肪酸ナトリウム)は、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH、苛性ソーダ)を使って作る。一方、アルカリとして水酸化カリウム(KOH、苛性カリ)を使えば、「液体石けん」(脂肪酸カリウム)となる。
石けん(石鹸)の表示(家庭用品品質表示法に基づく表示)をみると、個体であると液体であるとにかかわらず、「品名」の項には必ず「石けん」の文字が入っている。
ここで「複合石けん」とあれば、洗浄成分に石けんと合成界面活性剤(いわゆる合成洗剤)の両方が使われている。さらに「合成洗剤」だけの表示であれば、洗浄成分のほとんどが合成界面活性剤であると考えて間違いない。
同じく「成分」の項をみると、「純石けん分(23%)脂肪酸カリウム」などと表示されている。この場合、純粋な石けん分は23%で、水酸化カリウム(苛性カリ)を用いて作られた石けん(液体石けん)であることを示している。
合成洗剤は分解されにくい
初期のころ(1960年代)の合成洗剤(合成界面活性剤)の分子構造は、石けんよりもはるかに複雑であった。
ハード型(ABS、分枝鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)といわれるもので、下水に放出後も分解されにくく(生分解性が低い)、下水処理場や河川などで白く泡立つ現象が世界的に問題となった。
対策として、ソフト型(LAS、直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)が1960年代後半から開発され、白泡の問題は解決された。生分解性の向上をめざして、その後もAS(アルキル硫酸エステル塩)など各種の合成界面活性剤が開発されている。
また、合成洗剤に添加されたリン酸塩(助剤)が富栄養化の原因とされる問題があった。しかし、業務用を除いて無リン化はすでに達成されている。
天然油脂由来の合成洗剤がある
現在では、合成洗剤は天然の油脂からも作られている。ココヤシの種子(ココナッツ)から採取される油脂(ヤシ油)を原料としたもの、あるいは、アブラヤシから採れるパーム油を原料としたものなどである。
これらの原料は、「環境にやさしい植物原料」などといわれているようである。しかし、できあがった洗剤は、石けんよりもむしろ、石油系の合成洗剤に近い性質を持っているとされている。
さらに言えば、ヤシ類から油脂を採取するために、東南アジア各地の熱帯雨林を切り開くなど、環境破壊に加担していることも考えられる。現地の人たちの経済生活を破壊しているかもしれない。現代社会においては、様々な事柄が世界的なつながりの上に成り立っていることを忘れてはならない。
石けん(石鹸)か、合成洗剤か
“石けん”か合成洗剤(植物系あるいは石油系)かの選択は、それぞれの生分解性(石けんが優れる)、有機汚濁負荷(石けんの方が環境負荷が大きいとされる)、魚毒性(石けんの安全性は高い)、油脂消費量(石けんの方が多い)、人体への影響(主婦湿疹など石油系に多いとされる)などを総合的に判断して決めるべきものであろう。
必要なのは科学的データの積み重ねのみである。そして最終的にそれを判断するのは、もちろん賢い消費者である。そのためには、あらゆるデータが正確に分かりやすくきちんと公表されなければならない。もちろん、合成洗剤が”環境ホルモン”として働くかどうかも含めて検討されるべきである。
洗剤の使用量を減らすことが急務
いずれにしても、まず第一に大切なことは、”石けん”か合成洗剤かという選択の問題ではなく、洗剤全体の使用量を削減することである。「朝シャン」などのライフスタイルは、環境に負荷をかけることによって成り立っている。洗剤の適正使用とは何かが今厳しく問われている。
参考:石けん(石鹸)を自分たちで作ってみよう
廃油を利用して個人でも簡単に石けんを作ることができるならば、さぞかし楽しいことだろう。森水の会でも、廃油を利用した石けん作りを体験したことがある。
1992年7月(プリン石けん作り)の材料は、廃油に加えて苛性ソーダとご飯であった。そして同年12月には、苛性ソーダの代わりにオルトケイ酸ナトリウムを加えただけの石けんを作った。
しかしながら、個人で行う石けん作りには多少の注意が必要である。
苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は劇物であり、火を使うことによってその危険性が増すからである。インターネット上には、火を使わない方法を工夫したものや、オルトケイ酸ナトリウムを使う方法(火は使わないが発熱はする)などが紹介されている。
ところで、家庭で使用する廃油の成分は、その時々によって異なっている可能性があり、そのことも問題となる。同一のレシピに基づいて作ったとしても、すべての場合にうまくゆくとは限らない。
また、手作りの場合、全体を均一にできる保証はない。中途半端に出来上がった石けんでは、かえって河川を汚してしまう恐れがある。