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細見谷渓畔林と十方山林道

細見谷渓畔林とは

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細見谷渓畔林とは

本書の舞台である細見谷(ほそみだに)は、広島県廿日市市(はつかいち~し)吉和(よしわ)の最奥にあります。広島・山口・島根三県境から北東へ約10km前後の位置で、広島・島根県境尾根(五里山~京ツカ山~焼杉山~恐羅漢山)と広島県側の十方山南西尾根の狭間になります。

細見谷には細見谷川が流れています。そしてその渓流沿いには美しい水辺林が発達しており、これを細見谷渓畔林と言います。この細見谷渓畔林は、21世紀になってから、生物多様性の宝庫として注目を集めるようになってきました。今日の西南日本では他に例をみない規模の渓畔林であり、ブナ帯の自然林として生態学的に非常に特異な資源とされています。

渓畔林(そして河畔林)とは何か、〈EICネット:環境情報案内・交流サイト〉は次のように説明しています。

「河川周辺の森林のうち、上流の狭い谷底や斜面にあるものを「渓畔林」、下流の氾濫原(洪水時に氾濫水に覆われる土地)にあるものを「河畔林」という。渓畔林にはケヤキやサワグルミ、シオジ、トチノキ、河畔林にはヤナギ類やハルニレなどが生育する。(中略)」

「渓畔林や河畔林は生態学的に重要な機能を持つ。具体的には、1)水面を覆って日射を遮断するため、水温が低く維持され、低温を好む魚類が生息できるようになる、2)葉や昆虫が河川に落ち、水生昆虫や魚類の餌となる、3)倒木が河川の中の生物の生息環境を豊かにする、4)森林伐採や洪水で発生した土砂が河川に流れ込むのを防ぐ ― など(多面的な効果を有する)」。(以上、「」内引用)

細見谷渓畔林(上流部)、そして細見谷渓谷(下流部)

細見谷川の源流は十方山の西側にあります。細見谷川は、十方山南西尾根の北西側を流れ下り、祠(ほこら、山の神)附近で左折して「細見谷渓谷」(十方山の南西側)に流れ込みます。そこを過ぎてさらに左折、吉和川に合流して立岩貯水池(十方山の南東側)に至ります。

細見谷の源流は、このようにして十方山を反時計回りに半周した後、山県郡安芸太田町(旧・戸河内町)に入り、太田川本流となって瀬戸内海(広島市)に注いでいます。つまり、細見谷川は広島市の水がめである太田川の源流の一つです。

祠(ほこら)附近までの細見谷〈上部〉は、広島県内に多く見られる北東―南西系の断層に沿って発達した谷の一つです。〈下部〉の「細見谷渓谷」は、それと交差する西北西―東南東系の断層によって成り立っています。

細見谷〈上部〉の標高は、細見谷川の流れに沿って約990~710mくらいで、その両側の山頂部は、標高約1,000~1,300m前後です。かつては、その標高差300~400mの両側斜面全体が「冷温帯落葉広葉樹」(ブナなど)で覆われた”それはそれは深い森だった”ということです。

しかし、戦後の拡大造林によって、山頂部までスギ・ヒノキといった針葉樹で置き換えられてしまいました。そのため、今でも自然林(渓畔林)が残るのは、細見谷川沿いに長さ約5km前後で、幅は100~200mくらいしかありません。

これに対して、細見谷〈下部〉の「細見谷渓谷」は、渓畔林こそ発達はしていませんが、拡大造林による皆伐をかろうじて免れることができました。そのため、人々を寄せ付けないほど厳しく変化に富んだ渓谷美を今でも誇っており、関根幸次他編『日本百名谷』白山書房(1983年)にも選ばれています。

細見谷渓谷について、桑原良敏『西中国山地』p.110は次のように述べています。

「(細見谷渓谷は)断層線に直交する方向に貫入曲流したV字状の渓谷で、両岸から本流へ流入する小谷の落ち口付近には必ずと言ってよいほど滝があり、侵食の激しいことを物語っている。また本流の両岸は岩壁となっており、二万五千分の一図の毛虫記号の多さにも驚かされる」。

つまり、細見谷渓畔林のある細見谷上部を含む〈北東―南西系の断層〉に対して、細見谷渓谷(西北西―東南東系の断層)が直交する形で貫いているのです。そのため、両岸は切り立っています。渓畔林が発達する環境ではないようです。

ちなみに、中国地方で『日本百名谷』に選ばれているのは、細見谷以外では伯耆大山(甲川)のみです。

ヒトとクマのすみ分け

西中国山地のブナは、ほぼ標高800mより上に生育しており、そこはかつてクマ(ツキノワグマ)の楽園でした。西中国山地では、標高800mを境にして、それより上の深山にすむツキノワグマと、それより下の里山で暮らす人々がすみ分ける生活が長く続いていたのです。

西中国山地国定公園

広島・山口・島根三県境付近(吉和冠山~寂地山)は、西中国山地の中心部にあたり、太田川の源流域の一つとなっています。そして、三県境付近から広島・島根県境尾根を中心として、西中国山地国定公園(面積約285平方km)に指定(1969年、昭和44)されています。

この国定公園について、生物多様性情報システムホームページ(生物多様性センター、環境省自然環境局)は、次のように説明しています。

「西中国山地国定公園:中国山地の西部の冠山山地と、その周辺にある渓谷群を含む公園です。冠山山地は阿佐山(1,218m)、臥竜山(1,223m)、恐羅漢山(1,346m)、冠山(1,339m)、寂地山(1,337m)などの山々で、いずれも隆起準平原の特徴を現し、山頂部はゆるやかですが、山腹面は急斜面をなし、そこに幾つもの美しい渓谷を介在させています」。筆者注:冠山=吉和冠山

このページは、電子書籍『細見谷渓畔林と十方山林道』アマゾンKindle版(2017年3月6日)の一部です。

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