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細見谷渓畔林と十方山林道

細見谷をラムサール条約登録地に(連続学習会・第3回)現地観察会(2003/06/29)

2003年06月29日(日)、単独
細見谷をラムサール条約登録地に
現地観察会(連続学習会・第3回)

現地観察会(出発帰着:吉和・中津谷入口)
9:30~16:00前

「細見谷をラムサール条約の登録地に」の連続学習会・第3回は、大規模林道建設予定地の地質を中心とした<現地>観察・学習会として実施された。講師は、宮本隆実・広島大学助教授(地質学)と古川耕三さん(地質学会会員)のお二人である。

主催者の高木恭代さん(廿日市・自然を考える会代表)にお誘いを受けて出かける。主催者からの案内葉書によれば、講師の宮本隆実助教授から廿日市市に対して以下の報告書が提出されている。

「大規模林道の新設・拡幅予定地の細見谷南西部は多くの断層と地滑りが発達しており、全体として極めて脆弱な地山。掘削工事により崩落や新たな地滑りを起こす可能性が高く、大規模林道の建設には大きな疑念を持つ」。

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テーマ1:細見谷南西部の地質について

当日は吉和・中津谷入口に集合(9時30分)し、配車後直ちに十方山林道(既存)に向かう。 林道は入り口(標高約840m)から一旦標高約900mまで上がった後、細見谷川(標高約730m)に向かって下る。この最高点~細見谷川部分を通称七曲(ななまがり)といい、断層帯を避けるようにして取り付けられた林道が曲がりくねって続いている。

大規模林道化計画の概略は次の通りである。まず、七曲部分では、標高の高い地点(比較的平坦で真っ直ぐな部分)は拡幅舗装化する。そして、 その下の残り部分は全くの新道を建設して蛇行を回避する、という。なお、細見谷川との接点は現在より上流となる。そして細見谷川に沿った部分は、舗装化のみ(現行幅員)、となっている。

これに対して、当日の講師の一人である宮本隆実・広島大学助教授(地質学)は専門家の立場から、特に七曲部分の安全性に疑問を呈しているのである。というわけで、当日はまず最初に七曲の各ポイントを中心に、地滑り地形における崩落跡地などを観察する。

最初に車を止めたのは標高約840mの地点で、最高点からゆるやかに下っていく途中の地点である。地図で示せば、林道がその少し先から大きく蛇行しながら下り、再び最も接近してくる位置になる。そこを含めて前後3箇所を歩いて観察する。いずれも拡幅舗装化の対象区間である。

最初の観察地点(Point1)には、両側がすでにずり落ちて真ん中にまだずり落ちずに残っている急斜面がある(10時15分)。その急斜面をよじ登り崩落開始地点(標高差約40m位)に立つ。足元の地盤はやや平坦でふわふわしており、すでに少しずり落ちて上の地盤との間に段差がついているのがわかる。いずれはここも崩れ落ちる運命にあるのだという。何とも不気味な感じのする場所である。

少し離れた所では、林道脇にある”よう壁”にヒビが入っているのを観察する。この林道が建設(昭和28年、1953年)されてからすでに約50年経っている。しかし、このヒビ割れの原因はただ単なる老朽化だけではなさそうである。山側の地盤が林道側へ押し出されているのがその原因だという。

この地域全体が著しい「ゆるみ」状態に達しており、全般的に脆弱化しているのである。このような場所を拡幅するために2mも山側を削り取れば崩落は必死である。それともそのような崩落を防ぐための強固なよう壁の建設は可能なのだろうか。そして、新道建設予定地点の地盤はどうなっているのだろう。

大規模林道化によってもたらされる利益と、林道建設および完成後の維持にかかるコストとのバランスはとれているのであろうか。コスト&ベネフィットについて確かな数値に基づく議論がほしい。

さて、最初の地点から少し歩いて戻り(Point2)、流紋岩がこすれて粘土の層になっている(地滑り下底粘土)地点を見る。粘土は水を通さないのでその上から大量の湧水があふれている。そのため林道に水溜りができている。

しかし、雨上がりとはいえ、水が流れ込んでいない場所でも常に林道上には水溜りがある。地下水位が林道面のすぐ下にあるためだという。このような場所を舗装化すれば、アスファルトの下を地下水が通ることによって土を流してしまい空洞ができる可能性がある。

最初の地点まで引き返してさらに真っ直ぐ歩いて下る。突き当たりに2号橋がありその手前が観察地点(Point3)である。ここでも地滑り後の崩落崖や” よう壁”に生じた亀裂などを観察する。初期的変形地形(空中写真の判読によって確認されるような地滑り性の弱い変状)といった言葉も教えていただく。

車でさらに下る。途中、Point1の真下にある3号橋を越えた地点(Point4)で主断層を確認する(12時20分)。流紋岩(白亜紀)と泥質岩(ジュラ紀)がぶつかっているもので活断層かどうかまでは確認されていない。北東-南西方向にいく本か平行して走る広島県の断層のひとつである。

車はやっと細見谷川に接する地点(といってもまだ標高差40mくらいあるが)まで下りてきた(Point5)。道路には大きな石がころがり落ちており大人でも一人では動かせそうにない。

見上げればここも断層である。泥質岩(左)とチャート(右)であるという。チャートとは、海洋底で放散虫に含まれるSiO2(二酸化珪素)が固まったものだそうだ。

テーマ2:渓畔林部分の舗装化の問題点について

しばらく行くと林道はほとんど細見谷川と同じ標高となり、そのままゆるやかに川とともに登っていく。上っているのか下っているのか感覚的にはよくわからない。このゆるやかな傾斜が細見谷渓畔林の特徴の一つである。そして、雨上がりとはいえ、道路を流れる水は途切れることなく続いており、まさに湿地帯(ウェットランド、wet land)といった感じである。

林道入り口から9km地点で昼食(午後1時前)。細見谷川は水量は増しているもののけっして濁ってはいない。ゴギ(サケ科、西中国地方のイワナ)も元気で育っているだろうか。古老に言わせれば昔のゴギは今の50倍くらいの数が生息していたという。まさに魚影が濃くて川が黒く見えたといった状態であったのだろう。

実は細見谷の渓畔林は、幅100~200mで長さは10kmに満たない範囲に限られている。そしてそれより標高の高い地点は、植林のために元からあった広葉樹は切り倒されてしまった。古老が大量のゴギといっしょに見た森は、細見谷を囲む山々が全山広葉樹で覆われた深い深い森であった。もしもそのような森を復元することができるなら、ゴギの数も大幅に増えるであろう。

ここで、金井塚務(かないづか・つとむ、広島フィールドミュージアム会長)説の登場である。もしもクマ(ツキノワグマ)がゴギを食べるとするならば、そして、もしもゴギの数が昔ほど多かったならば、細見谷で生息可能なクマの個体数は大幅に増加するに違いない。

各学会では今のところ全く取り上げられていない仮設だが、古老からの聞き取りによれば、クマがゴギを食べたという目撃談はいくつかあるようだ。なお今日の仮説紹介者は、金井塚会長ご本人ではなく杉島洋さん(同副会長)であった。

最近町に住み着いたクマの中には、牧場にあるサイロのレバーを押して飼料を盗むことをおぼえてしまったものがいるという。森の王者としてはちょっとなさけない姿ではないだろうか。クマがクマらしく、故郷の細見谷で堂々と暮らしていける環境を取り戻してやりたいものである。

渓畔林は細見谷の核心部分である。渓畔林なくして細見谷の未来はない。細見谷・渓畔林の特異性、重要性については、すでに多くの専門家によって指摘され、また非常に高い評価を受けている。絶対に我々の世代で失うわけにはいかない。それは、次 の世代に引き渡すべき大切な宝物である。それは、吉和の、廿日市の、広島の、日本の、そして世界の宝である。

チャンスは今しかない。もし渓畔林内の林道を、たとえ拡幅することはないとしても、舗装化しただけで渓畔林に回復不可能なダメージを与える可能性が非常に高い。来年度工事着工をまずは凍結して議論をつくすべきである。廿日市市議会での討議はまだ十分になされたとは言い難い。市長、市議会議員の力量が問われている。

ではなぜ現員幅維持による舗装化でもダメなのか。まず第一に、舗装道路の路面は温度が高くなりやすいことがあげられる。路面を今のように常時水が流れる とするならば、水温が上昇することによる環境への影響は避けられないだろう。

あるいは、道路脇に側溝を作り舗装道路には水道(みずみち)を付けて、水がそこしか流れないようにするならば、水が流れなくなった箇所は乾燥化が進んでしまう可能性がある。

なお、地下水位が高く林道面のすぐ下にあるため、舗装化されたアスファルト道の下を地下水が通ることによって土を流してしまい、空洞化する可能性があるのは全ルートを通じて共通の懸念である。

既設林道建設から約50年経って、林道(未舗装)そのものが今や環境の一部となっている。林道の両端は極めて生物多様性に富み、2002年の植物調査では貴重種も多く発見されている。こうした植生は舗装化だけで確実に破壊されると考えられる。

既設林道の上は樹冠で完全に覆われるようになっている。ミネルヴァ(MINERVA)派の杉島副会長も夜の十方山林道を歩くことはできなかったそうだ。空が少しでも見えればその下に道があるはずと検討もつけられるが、空が全く見えないほど樹冠でおおわれていてはどうしようもないという。それほど既設林道は自然の一部と化している。

既設林道の舗装化は、大規模林道化の目的の一つであるという観光道路として成功する条件となり得るだろうか。渓畔林沿いでは現員幅を維持するのだから、交通量が増えれば増えるだけ車の離合は難しくなり渋滞が発生しやすくなるだろう。細見谷の谷底に排気ガスが溜まり木々が枯れる可能性が高くなる。樹木の数が減れば水温が上がって乾燥化が進むという悪循環に陥る可能性が高い。

細見谷・渓畔林について

昼食後、杉島さんを中心に、午前中に学んだことも参考にしながら林道を散策する。ちょっとしたエコツアーといったところである。 上記ですでに紹介した内容以外について簡単にまとめておきたい。

昼食をとった地点に、ミズナラとハリギリが並んで生えている。いずれも大木である。さすがの杉島さんも最初見たときには一瞬樹木名が分からなかったという。植物学の大家もこれらの木を見て唸ったという話である。渓畔林内には通常では考えられないくらい手付かずの自然がまだ残っている。

このミズナラには大きなツタウルシがからみついており、そのツルがノコか何かで切断されている。あるがままの自然を大切にしたいものである。なおそばにはサワグルミもある。

オヒョウの葉に初めて触った。特徴のある形をした葉の裏はザラザラしている。北方系の植物で渓畔林を構成する種の一つである。大きな天然スギが生えている対岸にカツラの株立ちを見る。ブナとイヌブナの木肌の違いを教えていただく。

なお、渓畔林内の植物はずいぶんと粘っこく成長するものらしい。去る5月4日の観察会で、下山林道をちょっと入った所にミズナラの大木が根元から折れて倒れているのを観察する。直径約200cm、1年に1cmづつ成長するとすれば樹齢200年位になる、とは杉島さんのお話であった。この件についてこの場でご本人から現況報告と訂正があった。

この大木が最近切り刻まれてしまった。そのまま放っておけばよさそうなものなのだが。ただし、切られたことによって年輪が数えられるようになったので数えてみた。すると3mm/年位の成長速度と読み取れたという。前回の推定樹齢200年(10mm/年)がどこまで古くなるのか見当がつかない。

午後3時ころ現地を離れ、4時前に集合地点到着

集合地点に向かう山道では、さすがにクリの花も最盛期の勢いはない。代わってネムノキの花が咲き始めている(標高の低い地点で)。十方山林道に入ればコアジサイが迎えてくれる。 Point5ではイワガラミを見る。対岸にも2~3本ある。集合地点手前に白い花を付けた大きな木。帰りにキイチゴの実?を摘んでいる人をみかける。

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