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細見谷渓畔林と十方山林道

細見谷をラムサール条約登録地に(連続学習会・第2回)2003/04/26

2003年04月26日(土)、単独
細見谷をラムサール条約登録地に
(連続学習会、第2回)

主催:廿日市・自然を考える会
協力:宮島自然史研究会
廿日市市中央公民館、14:00~

プログラム:
・細見谷におけるフィールドミュージアム構想
金井塚 務(広島フィールドミュージアム会長)かないづか つとむ
・森林生態学から見た細見谷の渓畔林と林道の舗装化
中根 周歩(広島大学大学院教授 森林生態学)なかね かねゆき

妻の体調不良、年度末決算、新年度組織改革、引越し、法事(遠方)とイベントが重なり多忙を極め、今回の十方山林道関連の勉強会からやっと”家外”活動を再開することができた。

さっそく以下で勉強会の内容を自分なりにまとめてみることにする。ただし、これは講演要旨ではありません。他の資料も参考にしてまとめたもので、あくまでも現在時点における私のレベルを示すものにすぎません。

ラムサール条約では、ただ単に湿地を保全すればそれでよしとするのではなく、賢い利用(wise use)が求められている。すなわち、生態系の自然特性を変化させない方法で、人間のために湿地を持続的に利用すること、が求められているのである。金井塚務さんは、賢明な利用の一形態として、フィールドミュージアム構想を提示している。

フィールドミュージアムとは、国立国語研究所の「外来語」委員会(委員長・甲斐睦朗同研究所長)の第1回最終報告(2003年4月25日)の主旨(外来語62語の言い換え提案)に沿えば、<野外博物館>となるのであろうか。

それはともかく、「博物館」法によれば、博物館とは、歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関、とされている。

博物館がまず第一にやるべきことは、実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコード等の博物館資料を豊富に収集すること、である。一言でいえば標本の収集ということになる。そのためには物を収容する建物が必要である。

しかしながら標本はあくまでも標本であり、それは死物にすぎない。生きた生物の暮らしぶりを研究して生物の全体像をつかむには、長い年月をかけて築かれた多様な生物種間関係(ネットワーク)を研究する必要がある。そのためには、生態学、進化学を踏まえた自然認識がかかせない。野外(フィールド)に出て生き物を生き物として丸ごと観察する必要がある。

フィールドミュージアムは豊かな自然が背景になければ成り立たない。そこで行われるエコツーリズムは、自然を破壊することなく価値を見出すことのできる行為である。地元ガイドの養成は地域の自然認識の高まり、すなわち文化の創造につながる。もちろん、ツアーその他によるオーバーユースだけは気をつけなければいけないが。

豊かな自然があればクマが里山にでてくることもないだろう。したがって、獣害解決の糸口ともなるはずである。クマの住む環境が破壊されてしまったので、クマはしかたなく拡散(町へ出てきた)したにすぎないのだから。

なお、フィールドミュージアムの実体験として、希望者は細見谷現地観察会に参加させていただける(5月連休中)ことになっている。それらの予習も兼ねて、糞から分かること、アニマルトラッキング(どんな動物の足跡かな?)として、ストライド(歩幅)、ストラドル(左右の足の間隔)の概念などを教えていただく。

ミュージアムとアミューズメントは語源を同じくする。博物館にもわくわくするような楽しさが求められる。

中根 周歩教授は、細見谷川が十和田湖・奥入瀬渓谷よりもさらにユニークな存在であることをまず最初に示した。約10kmもの間ゆったりとした傾斜に沿って渓畔林が続く環境はほかにないという。

渓畔とは、河川と山とを結ぶ心臓部にあたる。そこは、河川でもなく森林でもなく両方の生物の生息域である。多様な生物が暮らしを成り立たせることのできる<エコトーン、移行帯>、すなわち異なる生態系の接点である。

渓畔で最も重要なファクターは「水」である。山から川へ、表層流、地下水などが流れ込んでいる。これらの流れは川の手前ではすべて既存の林道付近に集中している。調査によれば、林道の下では伏流水は50cmよりも浅いところを流れている。場所によっては地下10cmまで掘るとすぐに水が見えるというし、林道下を通過できなかった水で林道の表面は常にぬれた状態になっている。

細見谷の伏流水は水量が豊富で、水温は年中安定(10~15度)している。細見谷川のゆったりとした流れは水の浄化に適している。ゴギ、サンショウウオの楽園である。冬でも川が凍ることはなく、どんな大雨の後でも川が濁ることはないのだという。

このような環境下にある林道を舗装化することは許されない。水の流れが断ち切られて渓畔の生態系が壊される恐れが強い。法面工事による環境破壊の影響も懸念される。アスファルト舗装は行わず、エコ・トーン(ブナ帯自然林)として残すのが得策である。そうすることによって、自然の一部としての人間の原点をさぐるようなハイレベルのリゾート地と成り得る可能性がでてくる。

ところで、実は細見谷渓畔林は両幅100m位が川に沿って残っているにすぎない。その上部(国有林)は人工林化(主にスギ)しているが現在では手入れされてはいない。これらの人工林は今となっては商品価値を生むのはむつかしい状況になっている。

人工林は強間伐するのがよい。切り倒した木をそのままにしておけば、その後に広葉樹が生えてくる。針広混交林とすることによって雨水の浸透能を高めることができる。それは、細見谷渓畔林をよりよい状態で保つのに役立つだろう。なお、このようにして再生した自然を野生生物の聖域として残すようにするとよい。

<細見谷をラムサール条約登録地に・連続学習会>

日時:2003年4月26日(土)午後2時から(廿日市市中央公民館)
主催:廿日市・自然を考える会
協力:広島フィールドミュージアム(旧宮島自然史研究会)
    吉和の自然を考える会

「細見谷をラムサール条約登録地に!」
連続学習会・第2回のご案内です。

前回(3月1日)は「細見谷の自然の重要性・独自性」「生物多様性の持つ意味」「細見谷で暮らすけものたち」「ラムサール条約とは」「ラムサール条約登録地指定への流れ」などについて学びました。(参加者多数。そして好評。ありがとうございました)。

今回は「森林生態学から見た細見谷の渓畔林」「十方山林道の舗装化が渓畔林に及ぼす影響」という今後の細見谷を考える上で大前提になる問題、および「細見谷におけるフィールドミュージアム構想」が主要テーマです。5月予定の現地観察会の事前学習もあります。ふるってご参加ください。

この連続学習会は、その都度のテーマに沿っていろいろな角度からの学習を重ねていきます。前回参加できなかった方もお気軽にどうぞ。なお、当日は前回の記録(有料)を用意します。

● とき  4月26日(土)午後2時~
● ところ 廿日市市 中央公民館 集会室
● 講師  金井塚 務(広島フィールドミュージアム会長)
       中根 周歩(広島大学 大学院教授-森林生態学-)
● 参加費 500円

主催: 廿日市・自然を考える会
協力: 広島フィールドミュージアム(旧宮島自然史研究会)
     吉和の自然を考える会

問合せ先:高木(0829-39-6655)網本(0829-39-2033)

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